
タテゴトアザラシの油
イヌイットの健康の秘密であるアザラシの油について、もう少し詳しく説明しましょう。
アザラシは英語でシール(seal)と呼ばれます。正確には、アザラシだけでなく、オットセイやアシカ、トドなどの海獣類をまとめてシールといいますが、本書ではアザラシの油のことを、とくにシールオイルと呼ぶことにします。
アザラシのなかでも、現在市場に出ているシールオイルは、タテゴトアザラシ(20ページ)の油が主です。
なぜなら、タテゴトアザラシが増えすぎて、その生息数を人工的に調整しなければならない状況にあるためです。
人とアザラシの共存共栄
アザラシは、20世紀半ば頃から、その毛皮がファッション界で大いにもてはやされ、需要が一気に増大しました。
その結果、乱獲されて頭数が大幅に減少。アザラシの絶滅を危惧したカナダ政府は、捕獲の規制に乗り出しました。
それによって、アザラシの生息数は次第に回復したものの、今度は逆に、漁業被害の訴えがでるほど増えすぎる種がでてきました。タテゴトアザラシはその代表です。
そこでカナダ政府は、人とアザラシの共存共栄を考慮し、タテゴトアザラシの制限捕獲を許可。肉は食用に、毛皮は革製品に、そして油(シールオイル)は政府奨励の健康食品として、世界で広く利用されるようになったのです。