もっとすごい薬効がわかった魚のEPA

血管を強くし、成人病に効く!

矢澤 一良 著 1993.12.18 発行
ISBN 4-89295-018-1 C2177 文庫サイズ 48ページ 本体 250円(税抜)

エスキモー人に血栓症が少ない理由

もっとすごい薬効がわかった魚のEPA

心筋梗塞死亡者は四年間に3人
世界で初めて、魚に含まれるEPAの効用に注目したのは、デンマークのダイエルバーグ博士とバング博士でした。
二人はもともとデンマークの病院で、デンマーク人の動脈硬化や心筋梗塞についての研究を行っていたのですが、
「グリーンランドに住むエスキモーには心筋梗塞や動脈硬化が非常に少ない」
との噂を耳にし、さっそくグリーンランドのある村へ調査に出かけたのが、EPA研究の始まりでした。
現地の調査で二人は、想像以上の驚くべき事実を知ります。
その村では、1963〜67年の4年の間に、心筋梗塞で死亡した人はたったの三人。人口に対する比率は、デンマークの十分の一にも満たない数値だったのです。
その後、動脈硬化症についても調査した結果、やはりエスキモーのほうが、デンマーク人にくらべて格段に、硬化の進行状態が緩やかであることがわかりました。

遺伝的要素ではない
ダイエルバーグ博士らは、まず民族性の違いではないかと考え、デンマークの都市部に移住したグリーンランド出身のエスキモーについて調査することにしました。
もし都市部に長く住む彼らが、グリーンランド在住のエスキモーと同じ結果であれば、民族固有の遺伝的な体質に起因していることになります。
しかし、デンマークに移り住んだエスキモーたちの心筋梗塞の発症率は、デンマーク人とほぼ同率でした。
とすれば、グリーンランドのエスキモーに心筋梗塞や動脈硬化症、その他の病気が発症するケースが少ないのは、後天的な理由によることになります。

脂肪分の摂取量は欧米並
そこでダイエルバーグ博士とバング博士は、今度はエスキモーの特徴的な食生活に着目しました。
当時のエスキモーたちの主食は、海で獲れるサケやマス、アザラシ、セイウチ、オットセイなどの魚や海獣。輸入のジャガイモをのぞけば、大半を海の幸にたよっており、家畜肉を主食とする欧米人とは大きく異なっていました。
「脂肪の摂取量に差があるのではないだろうか」
と両博士は考えたのです。
ところが3年間にわたって調査を続けたところ、意に反してグリーンランドのエスキモーは、総摂取カロリーの約35〜40%を脂肪から摂っており、欧米人並に高脂肪の食生活であることが判明。
さらには、そうした高脂肪の食生活であるにもかかわらず、血液中の総コレステロールや中性脂肪の値が低く、逆に善玉コレステロール(HDL)は高い値を示していたのです。
いったいどうしたことでしょう。

エスキモーの血中に多量のEPA
考えられることは、その脂肪を摂取する食物の違いです。
欧米人が主に牛や豚などの家畜肉から脂肪を摂取するのに対して、エスキモーは前述のように海の生物――つまり鯨、魚や海獣から摂取しています。
博士らは、エスキモーとデンマーク人の血液を採取して血中脂質(とくに脂肪酸)の比較分析を行うことにしました。
その結果、エスキモーの血中脂質には、デンマーク人よりはるかに多量のEPAという物質が含まれていることがわかったのです。
さらに、その脂肪に含まれるアラキンドン酸の量が、デンマーク人にくらべてごく少量であることも判明しました。
以後ダイエルバーグ博士は、EPAの効用に注目して研究を続けていきます。


デンマーク人とグリーンランドエスキモーの疾患発症頻度

疾患名デンマーク人グリーンランド
エスキモー
急性心筋梗塞約40人3人
約53人46人
消化性潰瘍約29人19人
乾癬約40人2人
気管支喘息約25人1人
慢性関節リウマチよくあるまれ
海洋性大腸炎よくあるまれ
憩室炎よくあるまれ


エスキモーとデンマーク人の食事脂質および血小板脂質の比較(単位:%)

 食事脂質血小板脂質
エスキモーデンマーク人エスキモーデンマーク人
ω65.010.03.98.2
アラキンドン酸0.48.522.1
EPA4.60.58.00.5
DHA8.50.39.12.7


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