EPAは心臓を守る潤滑油

心臓病・がん・高脂血症など成人病予防の決定打

浜崎 智仁 中村 典雄 著 初版 1996.09.11 改訂版 2001.02.03 発行
ISBN 4-89295-415-2 C2177 文庫サイズ 48ページ 本体 250円(税抜)

うつ病や敵意性との相関関係

EPAは心臓を守る潤滑油

EPAが高いほど鬱病の程度が軽い
現代社会はストレスで満ち溢れており、うつ病の有病率も増加しています。特に欧米をはじめとする先進諸国では、この傾向が顕著です。うつ病と魚油との関連を示したのが、次の図です。これからわかるように、魚の消費量が多い国では、うつ病の有病率が低くなっています。
一方、脂肪酸自体を検討した報告もありますが、うつ病患者さんの症状の程度を表すスコアと赤血球膜のアラキドン酸/EPA比は、正の相関がみられています。これは、うつ病の程度が強いほどアラキドン酸が高くEPAが低値であり、うつ病の程度が軽いほどEPAの割合が高いことを示しています。
これらの報告から、EPA(魚食)は、うつ病の治療や予防に有効である可能性が出てきましたが、残念なことにうつ病の治療に関しては明らかに有効というデータはまだ出ていません。しかし予防の可能性は十分にあります。


魚の消費量とうつ病の発症率の相関関係(Hibbeln)
魚の消費量とうつ病の発症率の相関関係(Hibbeln)


躁鬱病では寛解期が延長
そううつ病はどうでしょうか。これに関しては、つい最近、二重盲検法で魚油に効果があるという報告がアメリカから出てきました。
そううつ病の患者さん14名にEPAとDHAを1日9.6g投与し、対照群16名には同量のオリーブ油カプセルを4ヵ月にわたり投与しました。すると魚油群では症状のない寛解期間が明らかに延長し、有効率も魚油群では14名中9名と高くなっていました(対照群では16名中3名)。

毎日魚を食べると自殺率が低い
フィンランドのクオピオ市での魚食と自殺企図との関係を示す調査があります。
1767名の男女(25〜64才)へのアンケート調査によると、週2回以上魚を食べると答えた人たちはそれ以下の人たちに比べて、うつ傾向となる率は63%と低く、また自殺願望は57%と低くなっていました。
アメリカでも次のような報告が出てきています。自殺を試み、精神科へ入院した50名を調査したところ、30名がうつ病で、残りは大部分が衝動性精神疾患でした。
衝動性疾患の患者を詳しく調べると、血中のEPAが低ければ低いほど重症化が見られ、現在、EPAによりそのような患者の自殺予防の研究が検討され始めています。
日本でも前述の平山雄氏の調査(11頁)の中に自殺の項目がありました。魚を毎日食べている人の自殺率は、それ以下の人より低く81%でした。このように魚を食べている人の方が自殺をしない傾向にあるのです。

17才問題のキレやすさの陰に
EPAの兄貴分にあたるドコサヘキサエン酸(DHA)という脂肪酸があります。著者らが二重盲検法で調べました。

【調査方法】
41名の学生を2群に分けて、一方には魚油カプセル(n-3系のDHA主体)、もう一方には大豆油主体の偽薬カプセルを二重盲検法で3ヵ月間投与し、投与前後で心理テスト(PFスタディ)を行って両群の差をみました。

【結果】
DHAに敵意性を制御する作用があることがわかりました。
学生さんは普段魚をほとんど食べていないため、魚の油の欠乏症になっており、ストレスでキレやすくなっていたのです。刑事事件を起こす未成年者では、同じように魚を食べていない人が多いのではないでしょうか?

魚食と他殺件数に逆相関
この原稿を書いているときにアメリカのジョセフ・ヒベルン博士より考えさせられるデータが送られてきました。
世界26カ国の調査で、その国の魚の消費量と他殺件数には逆相関があるというのです。つまり、魚を食べない国では殺人が多いとの結果が出たのです。魚を食べていない敵意性の強くなった人がキレて殺人を犯したのか、あるいはキレて相手に殺意を抱かせるほど怒らせたのか、理由はともかく敵意性の研究とつながりがありそうです。
EPA、DHAは心臓を守る潤滑油であると同時に、心の潤滑油でもあるのです。


DHA投与による敵意性への影響
DHA投与による敵意性への影響


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